新美南吉の詩による歌曲集「母さんの歌」



新美南吉の詩による歌曲集「母さんの歌」(全5曲)

  1. 雀の歌
  2. 影絵
  3. 乳母車
  4. 母さんの歌
  5. 天国

作詩:新美南吉

作曲:SEIGI

編成:独唱+ピアノ

演奏時間:2分/3分20秒/4分05秒/3分10秒/3分25秒(約16分)

作曲年:2011年1月~2011年7月

 

初演データ

2013年6月23日/半田市福祉文化会館 雁宿ホール

新美南吉音楽物語~序章から終章 その情熱あふれる童謡創作オラトリオ~

ソプラノ:竹内久恵(1.4.5)、鈴木里奈(2)、児玉弘美(3)

ピアノ:松下美香(1.3.4.5)、久野絵美(2)

 

2011年に作曲された母と子をテーマにした歌曲集。

新美南吉生誕百年記念事業の一環として、彼が生まれ育った愛知県半田市で2013年に全曲初演されました。

全5曲。全曲の演奏時間は約16分。


Score

品番:SSP-S4002

出版:SSP出版

販売形態:製本版(無線綴じ)

ご注文から製本工程を経て、製本会社の発送による商品の到着まで、通常配送の場合およそ1~2週間程度かかります。なるべくお時間に余裕をもってご注文くださいますようお願い申し上げます。

*第3曲「乳母車」・第5曲「天国」のみ収録

品番:SSP-S4900

出版:SSP出版

販売形態:製本版(SEIGIソングアルバム ベストセレクション Vol.1 [歌曲編])


YouTube

★収録されているDVDの仕様の関係上、1曲目「雀の歌」と4曲目「母さんの歌」の映像内に一部音飛びがございます。

 また初演者のご意向により、1曲目「雀の歌」は移調して演奏しております。予めご了承下さい。





作曲者からのメッセージ

 ――私が新美南吉との詩集と出会わなければ、この歌曲集はこの世に生まれなかっただろう。

あれはいつ頃だったでしょうか。そろそろ歌曲(独唱曲)を書いてみたいと思い、近所の本屋を訪れました。詩集を購入しようと、専門のコーナーで見つけたのはハルキ文庫の詩集シリーズ。谷川俊太郎、立原道造、金子みすゞ…。名だたる詩人が連なる中に、新美南吉の名がありました。彼が「ごんぎつね」や「手袋を買いに」など、私が小さい頃に親しんだ童話の作者であることはもちろん知ってはおりましたが、詩そのものを書いていた事実を知ったのはその時が初めてでした。その場で詩集を眺めていると、私はその南吉の世界に次第に引き込まれてしまったのです。「これは曲を付けてみたい!」という思いが沸々と湧き上がり、即座にレジへ向かったのを今も覚えています。最初に曲を付けたのは「窓」で、2010年5月から。それから1曲ずつ楽しみながら、模索しながら作曲していきました。

 さて、この歌曲集は2つのテーマを軸に構成・作曲したものですが、1つは叙情的な作品を集めた「線香花火」、そしてもう1つは母と子の姿を描いた「母さんの歌」です。片方だけを演奏するのもいいですし、時間に余裕があるならば2つ合わせて通して演奏するのも良いでしょう。もちろん、数曲だけピックアップするのも一向に構いません。各自どうぞお好きなように演奏してほしいと思います。

 私が作曲する際はただ上辺な旋律だけではなく、詩の世界を音楽で表現、いや、再現したいと常に考えており、さらに「繊細で難しい日本語を、いかに美しく聴かせることができるか」を日々追い求めているところであります。私たち日本人は、その日本語が母国語であるが故に、演奏する際はおざなりになりがちだと思うのです。日本語が日本語に聴こえない。これは私が非常に危惧していることでもあります。この歌曲集を演奏される皆さんは、どうぞ日本語を丁寧に発音し、どうしたら美しく聴こえるかを再度研究なさってください。また、数多くの歌い手の方々に愛唱されることを心から願っております。

 最後になりましたが、この歌曲集は新美南吉生誕百年記念事業の一環として、彼が生まれ育った愛知県半田市で2013年に全曲初演されました。初演の機会を設けてくださったアルス・ノーヴァ(代表:伊藤真司先生)の皆様に心より厚く御礼申し上げます。

2017年6月

SEIGI

楽曲解説

  • 1. 雀の歌
    とても可愛らしい詩です。愛嬌たっぷりと、コミカルに演奏なさってください。スタッカートはそんな気持ちを表しています。転調が2回ありますが、それはその分「早く卵から出てきてほしい」という気持ちが高まっている証です。最後の「ばあっ」は、曲中でいちばん表情豊かに演奏してくださると嬉しいです。

  • 2. 影絵
    歌曲集の中でも異色を放っている曲です。暗い、怖いと思わずに、真摯に曲と向き合いましょう。きっとその中にほのかな明るさが見えてくるはずです。まず、楽譜の冒頭にもあるように「rubato」や「陰影をつけて」の表現が、この曲を支配していると言っても過言ではありません。自由な揺らぎが欲しいところです。演奏者のセンスが求められる箇所でもあります。まるでランプの炎が揺らめいているかのように…イメージしてもらえれば嬉しいです。この曲のピアノパートには、強さ(mfやf)を表すデュナーミクがありません。ppやp、mpは基本的に優しく、やわらかく、美しくお弾きください。派手さもない、技巧的でもない曲ではありますが、むしろこういう曲のほうが演奏するのは難しいのかもしれません。
     
  • 3. 乳母車
    乳母車に乗せてとせがむ子供。そんな元気だった子供も、いざ乳母車に乗せられると眠くなってスヤスヤと夢の中へ…。私たちも過去に経験したであろう風景が描写されています。ヘ長調という調性は、私にとって母性的なイメージの調性です。なのでこの調性を選んで作曲させていただきました。曲中にある「くるくる」や「ゆらゆら」のオノマトペや、最後の「ふんわり」は表情豊かに、やわらかく。45小節などにあるピアノの16分音符は、下手をすると前に突き進んでテンポを速めてしまう恐れがありますので、きちんと一定のテンポでお弾きになってください。

  • 4. 母さんの歌
    哀愁が漂う詩です。どこか懐かしく、思い出すように。歌いだしが低い音域なので、けっして暗い音色にならぬよう、明るい発声を心がけましょう。35小節では一時的に転調します。この部分は、子供が立派に大人になり、親である自分のもとから旅立っていく心境を歌う場面です。42小節にあるaccel.はそんな哀しみを吐露しているとお考えください。48小節からは落ち着いて穏やかに。79小節からのデュナーミクは楽譜通り、丁寧にお願いします。最後のF音は絶叫しないように、優しく。

  • 5. 天国
    母親の背中は子供にとって天国である。とても素敵な詩です。冒頭「おかあさん」の1オクターブ跳躍は大変かと思いますが、軽々とハードルを越えられるよう何度も練習をしましょう。30小節からテンポが速まりますが、特に言葉を明瞭に。45小節の「てんごく」でこの曲の最高潮を迎えます。決して乱暴にならないように注意。50小節のピアノソロは美しく。私もこの部分は気に入っています。59小節で冒頭部の再現がなされますが、最初とは少し違った心境やニュアンスで歌われると、より良い演奏になるのではないかと思います。最後の「U」は、平べったくならぬよう、口の形を「O」にして響きを出すと効果があります。

解説 SEIGI

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