新美南吉の詩による歌曲集「線香花火」


新美南吉の詩による歌曲集「線香花火」(全6曲)

  1. 月夜
  2. 貝殻
  3. 朝は
  4. 線香花火

作詩:新美南吉

作曲:SEIGI

編成:独唱+ピアノ

演奏時間:1分40秒/3分20秒/3分50秒/2分40秒/2分50秒/3分05秒(約17分25秒)

作曲年:2010年5月~2010年9月

 

初演データ

2013年9月8日/安城市民会館 サルビアホール

新美南吉生誕百年記念コンサート「南吉花のき村音楽物語」

ソプラノ:野村初江(1.2)、毛利美奈子(3.4)、鈴木恵美(5.6)

ピアノ:磯貝陽子(1.2)、福田由香(3.4.5.6)

 

2010年に作曲された叙情的な作品を軸とした歌曲集。

新美南吉生誕百年記念事業の一環として、彼が生前過ごした愛知県安城市で2013年に全曲初演されました。

全6曲。全曲の演奏時間は約17分半。

★初演者のご意向により、3曲目「貝殻」は移調して演奏しております。


Score

品番:SSP-S4001

出版:SSP出版

販売形態:製本版(無線綴じ)

ご注文から製本工程を経て、製本会社の発送による商品の到着まで、通常配送の場合およそ1~2週間程度かかります。なるべくお時間に余裕をもってご注文くださいますようお願い申し上げます。

*第3曲「貝殻」・第5曲「線香花火」のみ収録

品番:SSP-S4900

出版:SSP出版

販売形態:製本版(SEIGIソングアルバム ベストセレクション Vol.1 [歌曲編])


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作曲者からのメッセージ

 ――私が新美南吉との詩集と出会わなければ、この歌曲集はこの世に生まれなかっただろう。

あれはいつ頃だったでしょうか。そろそろ歌曲(独唱曲)を書いてみたいと思い、近所の本屋を訪れました。詩集を購入しようと、専門のコーナーで見つけたのはハルキ文庫の詩集シリーズ。谷川俊太郎、立原道造、金子みすゞ…。名だたる詩人が連なる中に、新美南吉の名がありました。彼が「ごんぎつね」や「手袋を買いに」など、私が小さい頃に親しんだ童話の作者であることはもちろん知ってはおりましたが、詩そのものを書いていた事実を知ったのはその時が初めてでした。その場で詩集を眺めていると、私はその南吉の世界に次第に引き込まれてしまったのです。「これは曲を付けてみたい!」という思いが沸々と湧き上がり、即座にレジへ向かったのを今も覚えています。最初に曲を付けたのは「窓」で、2010年5月から。それから1曲ずつ楽しみながら、模索しながら作曲していきました。

 さて、この歌曲集は2つのテーマを軸に構成・作曲したものですが、1つは叙情的な作品を集めた「線香花火」、そしてもう1つは母と子の姿を描いた「母さんの歌」です。片方だけを演奏するのもいいですし、時間に余裕があるならば2つ合わせて通して演奏するのも良いでしょう。もちろん、数曲だけピックアップするのも一向に構いません。各自どうぞお好きなように演奏してほしいと思います。

 私が作曲する際はただ上辺な旋律だけではなく、詩の世界を音楽で表現、いや、再現したいと常に考えており、さらに「繊細で難しい日本語を、いかに美しく聴かせることができるか」を日々追い求めているところであります。私たち日本人は、その日本語が母国語であるが故に、演奏する際はおざなりになりがちだと思うのです。日本語が日本語に聴こえない。これは私が非常に危惧していることでもあります。この歌曲集を演奏される皆さんは、どうぞ日本語を丁寧に発音し、どうしたら美しく聴こえるかを再度研究なさってください。また、数多くの歌い手の方々に愛唱されることを心から願っております。

 最後になりましたが、この歌曲集は新美南吉生誕百年記念事業の一環として、彼が生前過ごした愛知県安城市で2013年に全曲初演されました。初演の機会を設けてくださったアルス・ノーヴァ(代表:伊藤真司先生)の皆様に心より厚く御礼申し上げます。

2016年12月

SEIGI

楽曲解説

  • 1. 窓
    私が新美南吉の詩をテキストに使って歌曲集を制作するにあたり、一番最初に選んで曲を付けた詩です。冒頭に「爽やかな風を感じて」と記したように、自分が窓を開けた時の心理状態や目に見えた風景をイメージされると良いでしょう。基本的に同じようなフレーズが繰り返されますが、その都度、気持ちを切り替えましょう。「ひかった」の「ひ」はH子音を大切に。決して「いかった」に聴こえぬよう注意を。クレッシェンドは自然にかけましょう。softlyは特にやわらかく、優しく歌ってください。

  • 2. 月夜
    月夜という神秘的な美しさを表現した曲です。歌の始めにはそれぞれtranquilloとあります。この詩の世界は夜ですから、静かに、そして自分の内面に語りかけるような歌い方がベストでしょう。53小節からはより一層静かに。pと表記されていますが、気持ちとしてはppぐらいが良いかと思います。その箇所のピアノパートの右手の音は口笛を模しています。61小節の左手は音数が多くなり、細かい16分音符はテンポが速くなりがちですので注意。一定のテンポをキープしましょう。70小節のpoco a poco dim.はゆっくり夜の彼方へ消えていくように…。

  • 3. 貝殻
    波のイメージを模したピアノの前奏に導かれて、そっと歌い出します。20小節「しずかにならそ」のクレッシェンド、デクレッシェンドははっきりだすと効果があります。ただし大げさにならぬように。22小節からのピアノ間奏ですが、24小節で「表情を変えて」とあるように、この2小節でガラッと雰囲気を変えてください。33小節から3拍子、変ニ長調になりますが、そこからは先ほどの荒れたような波のイメージから落ち着いて穏やかに。45小節「あたためん」の「ん」は響きにくいので歌い方には工夫を。貝殻から聴こえてくるその音とは一体どんな音なのでしょうか?イメージをふくらませて演奏に臨んでください。
     
  • 4. 朝は
    とてもロマンチックな詩です。詩の中に出てくる「朝露」という言葉からイメージを得て、冒頭のピアノパートはキラキラとした音形になっています。26小節「好きな」や、34小節「朝露」などのメロディの跳躍を正確に。転調してからは音色の変化を味わいましょう。38小節「じっと」のespr.ですが、ここは子音を立てることによって表現の幅がぐっと広がると思います。この部分はうまくrit.をかけてみてください。
     
  • 5. 線香花火
    この曲は、新美南吉の詩と私の書いた旋律が見事にマッチした曲だと自負しております。ですので、この歌曲集の表題に選びましたし、私のお気に入りの曲でもあります。線香花火のあの独特な香りや風情が表現できればなお良いでしょう。こういった曲というのは表情をつけて歌いたいところですが、ここはぐっと堪えて、最後まで淡々と歌ってほしいですね。途中にあるヴォカリーゼ「A」や「O」は、歌詞が付いていない分、より一層叙情的に。私の個人的な意見ですが、曲中の「あの子」は、前曲「朝は」の少女であると仮定し、歌曲集の曲順もそれを踏まえて意図的に構成しました。

  • 6. 木
    主人公が木に手を触れたことによって伝わってきた温かさが物語るとてもドラマチックな曲です。「生きる」とはなにか。自分の人生を見つめる良いきっかけになる曲だと思います。また、この曲はテンポや調性が変化する箇所があちこちに多くみられますので、場面転換する部分を再度確認しましょう。最初の「木はさびしい」は3回繰り返されますが、絶対同じ表情づけで歌わないように。子音の深さや音量などを効果的に変えましょう。55小節の「それが」のmfpは大切に。1回目はその後にクレッシェンドがありますが、2回目の57小節にはありません。意外と見落としがちですので注意しましょう。一つの音符ごとにテヌート、スタッカート、アクセントがあるのでここは歯切れよく。61小節からは冒頭部の再現です。ただ前奏とは違い、ここでは歌がついています。ピアノの右手の旋律と、歌の旋律がまるで響きあうかのように。67小節は楽譜にも注意書きをしてあるとおり、基本的には高いF音ですが、括弧のC音を歌っても構いません。演奏される方のお好みで選んでみてください。最後は余韻を残して、感動的に締めくくりましょう。

解説 SEIGI

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