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　＊この文章は、委嘱団体である合唱楽団the Garden of Kの皆様へ、合唱練習に向けて演奏のポイントをまとめて解説した寄稿文です。公式ウェブサイトに掲載するにあたり、一部文面を書き換えている旨、ご了承くださいませ。

　私がいつもアレンジする際は、原曲を何度も聴いて身体の中へ落とし込みます。副題に「混声四部合唱とピアノのための」とあるように、このアレンジでは合唱とピアノが共に協奏します。どちらかが主役でどちらかが脇役ではなく、どちらも主役です。この譜面から音楽を構築し、舞台を彩っていただければと思います。今回カラ庭さん（「合唱楽団the Garden of K」の愛称です）からの委嘱で、また好きな曲をアレンジする機会を頂き、私の持ってるすべてを注ぎ込みました。歌って楽しんでいただければ幸いです。さて、この曲は劇場版「⻤滅の刃」無限列車編の主題歌です。興行収入が400億円を超え、日本歴代興行収入第1位を記録。第62回日本レコード大賞、大賞受賞曲でもあります。私は昨年11月に劇場へ観に行きましたが、大号泣してしまいました（この時ほどマスクしていて良かったと思ったことはないです…）。アレンジはほぼ原曲サイズです。キーは合唱用に変更しています。所々でパートを跨いで主旋律の移動する箇所がありますので、まず主旋律をどのパートが歌っているのかを確認しましょう。

• [Intro.]
  　冒頭部はアカペラにしてみました。夜明けの静けさを表現するためのppです。2小節後半からSop.とピアノが入ります。cresc.してpに到達しますが、ほんの少し利かせるぐらいでちょうど良いかと思います。特にSop.は入りから音域が高いので大きく歌いがちですが、ここはぐっとこらえて抑えましょう。4〜5小節のAltoのFis音→E音への解決をなめらかに。

• 練習番号[A]

  　「さよなら　ありがとう」この曲で一番伝えたい部分ではないかと個⼈的に思っています。ですからespr.の表記を付し、全パートunis.にしています。感謝と別れの言葉ですので、淡々と歌っても良いでしょうし、少し息を使って感情を表現するのも良し。皆さんでご一考くださればと思います。10小節から全パート違う旋律を歌い出します。12小節、Ten.の「痛みに」の「みに」E音は女声と同じ高さになります。決して声を張り上げるのではなく、女声に溶け込むようなイメージを持つと良いでしょう。音色の統一を。

• 練習番号[B]

  　ここから女声→男声へ。Alto→Bassへの主旋律の受け渡しを明確に。そして17小節4拍目からはSop.とTen.による高声が主旋律を、AltoとBassによる低声がechoの役割を果たしますので、掛け合いを楽しんで。poco a poco cresc.でメラメラとサビに向かって心を燃やしてください。20小節の男声「胸の奥に」は、うんとレガートに。女声との対比を。

• 練習番号[C]

  　サビから転調しますので、音取りはしっかりと。fはとにかく大声を出せば良いのではなく、感情の高まりや、溢れそうな想いが吐露した形だと思ってください。全編に言えることですが、例えば「旅の途中で出会い」の「出会い」等は、譜面に書いてあるリズムではなく、若干崩して歌っても良いかと思います。原曲のLiSAの歌唱法を参考にしてみてください。ただ、もし崩すのであれば、それはそれできちんと揃えることを忘れずに。各自バラバラに歌うと汚く聞こえます。Bassの旋律「旅で出会い」は特に独立させて聞かせたい。美しいレガートを望みます。Ten.の「手を離した未来」も同様。28小節は女声が音を伸ばしますが、特にSop.のGes音は高いので、譜面上では3小節目からdecresc.していますが、2小節目ぐらいからかけても良いかもしれません。男声とのバランスを見て決めてください。「決意を餞に」はunis.で、31小節の「i_」のsentimentaryは声にならない、なんとももどかしい気持ちで。

• 練習番号[D]

  　男声が主旋律。Altoの「囚われたり」は独立して聞かせて。Sop.のオブリガートは美しく。softlyは優しく柔らかく。ピアノは高音部によるキラキラとした16分音符の音色で彩って。40小節からSop.が主旋律。Ten.のオブリガートは41小節からcresc.がありますが、「A_」は決して声を張り上げることのないよう、若干抑えて。42小節4拍目の「失いたくない」は全パートunis.です。risolutoは決然と。ピアノも音が一瞬消えます。この空間を意識した音楽作りは大切に。私はなにかしらメッセージ性がある箇所は、unis.にすることが多いのかもしれません。以下同様に。

• 練習番号[E]

  　練習番号[B]とは逆に、男声→女声への主旋律の受け渡しをしっかりと。47小節4拍目からはAltoとBassによる低声が主旋律を、Sop.とTen.による高声がecho。poco a poco cresc.で次の転調への予感を高めて。49小節4拍目からTen.が主旋律。

• 練習番号[F]

  　Con Passioneは情熱的に。私としては魘夢（えんむ）とのバトルをイメージしています。女声は原曲の旋律を、男声とピアノはTVアニメ版の主題歌「紅蓮華」の旋律を編み込んでみました。こういうところが編曲の醍醐味であり、アレンジャーとしての腕の見せ所です。これは煉獄さんと主⼈公である炭治郎一行が共闘していると思っていただければ嬉しいです。ここは「O_」で歌っても良いですが、「Wow（ウォウ）」で歌っても構いません。お好きなほうでどうぞ。ただし統一して。58小節、特にAltoとTen.が独立した動きをしますので、はっきりと主張して。ピアノで奏でられる63小節まではdim.して冒頭部のような静けさを演出しましょう。大サビ前の64小節「ha_」のfp、cresc.は大げさに。しかも三善アクセント付き！これは煉獄さんの「呼吸」です。「手を伸ばし」は ff で最高潮を迎えますが、全パートunis.にしています。普通、大サビはハーモニーを付けるものですが、今回敢えてunis.にしてみました。こういった大胆な判断も時には必要なのです。con fuocoは炎のように。原曲ではin tempoですが、アレンジではpoco riten.で、練習番号[G]をより印象付けるものに仕上がっています。ピアノもここから6連符がたくさん出てきて大変ですが、それこそ炎のように一気に燃え盛ってください。

• 練習番号[G]

  　Maestosoは荘厳に、威厳に満ちて。ここから大サビです。煉獄さんと猗窩座（あかざ）とのバトルをイメージしています。かなり余力を残しておかないと歌えない箇所だと思います。ピアノの左手のリズム（16分音符の3連符）は行進曲風に。煉獄さんの勇ましさを象徴して。細かい音符というのは見た目の印象からなのか、若干テンポが速くなりがちなので、きっちり正確に刻んでください。初稿ではここのピアノパートはもっと難しかったのですが、かなり優しくしています。71〜74小節は練習番号[C]の解説を参考に。75小節は全パートunis.で、espr.の表記あり。「心に炎を灯して」煉獄さんの意志を引き継ぎます。ピアノもリズミックに、marcatoではっきりと。79小節でAltoのEs音と、Ten.のDes音がぶつかりますが、ここが美しく決まると最高ですね。言葉にならない「hey yeah e_」はechoで全パートへ割り振っていますが、同じ音色で。Sop.の音色（歌い方や声の明暗、感情の込め方など）を聴いて、次に歌い出すパートはその真似をしてください。「自分の受け持つパート以外のパートをしっかり聴いているかいないか、またその音色を瞬時に表現できるか」が試されるわけです。

• 85小節、Meno mosso〜　※この部分は演奏する際に省略可。
  　この箇所は原曲にはありません。アレンジの際に私が独自に付け足しました。「炎」の旋律と「紅蓮華」の旋律（歌い出しとサビ）をミックスしたらどうなるかなと思い、最後はアカペラで仕上げてみました。ricordoは記憶や思い出を回想する意。Ten.の入りが非常に難しいです。指揮者の合図を参考にスムーズに歌い出しましょう。Sop.が「紅蓮華」の歌い出し、Altoが「炎」のサビ、Ten.が「紅蓮華」のサビ、Bassは…特になし。本当はTVアニメ版のED「from the edge」の旋

  律を取り入れようとしましたが、ちょっとうまくいかず断念しました。ごめんなさい。でもここはBassの支えがないとハモリが成立しないのでとても大切です。「A_」「lu_」「O_」とそれぞれのヴォカリーズが混じり合います。いろいろなフレーズが回想となって駆け巡るイメージで。87小節のallargandoはじわじわと。ピアノは残響の中でアカペラが鳴るように書いています。次第にペダルを上げて合唱の中に溶け込んでください。88小節の4分休符による間を大切に。一瞬の緊張感のある間を表現してください。「ha」の歌い方は64小節と同様に、しっかりと歌いきってください。その後の静寂に、皆さん一体どんな気持ちを抱くでしょうか。どうか煉獄さんや炭治郎一行の行く末を、歌声で演出なさっていただければ幸いです。皆様の想いが煉獄さんの元へと届きますように…。

  2021年7月

  SEIGI